自己負担を抑える
最近、健康保険の高額医療費制度という言葉がニュースに登場している。
高額医療費制度とは、高額な医療費が発生する場合に患者の負担を抑えるため、自己負担額の上限があらかじめ決められているものだ。
例えば脳内出血などでICUに数週間入院して300万円かかったとして、2割負担だと60万円、3割負担だと90万円を支払うことになるが、年収に応じて決められた負担上限額を超えた場合は、支払った医療費との差額が払い戻されることになっている。
仮に50歳で年収約600万円の人なら1カ月の医療費が300万円かかった場合でも、実際には11万円弱の支払いで済む。
さらに事前にこうした高額医療費が発生することが分かっている場合には、限度額適用認定証を申請して窓口で示すことで最初から支払額を低く抑えることができる。
いわばこれは、日本の健康保険制度の根幹のひとつとも言えるしくみだ。
がん患者からの抗議の声
この高額医療費制度で決められている自己負担限度額を3年かけて大幅に引き上げようという案が、昨年末に閣議決定されて来年度の政府予算案に組み込まれた。
この問題が国会の予算委員会で取り上げられ、抗がん剤などで長期療養をしているがん患者の団体などから抗議の声が上がり署名運動も始まって、2月4日にようやく厚労大臣が改めて患者さんたちの声を聞くと表明した。
最近では日本人の二人に一人ががんにかかるものの、抗がん剤治療等で生存率がかなり上がってきていると言われている。ただ問題は、抗がん剤治療は医療費が高額で長期にわたることだ。
患者へのアンケート調査では、現在の自己負担限度額でも途中で治療を断念しようかと迷う人がかなりの割合でいることがわかる。
これでもし自己負担限度額が引き上げられたとしたら、治療をあきらめる人、つまり医療から切り捨てられる人が出てくるだろうとがん患者団体は訴えている。
繰り返し出される見直し案
アメリカでは自己破産する人の約6割が高額医療費の支払いができなかったためと言われているが、その8割は民間の医療保険に加入していたとされる。
日本の健康保険料(健康保険税)は高いと感じている人も少なくないと思うが、こうした高額医療費制度がある現状を考えると、かなり強力なセーフティーネットだと言えるのではないだろうか。
高額医療費制度の見直し案はこれまでも財務省から出されているが、それに対して今回のように国民の切実な要望を表明していくことは大事なことだと思う。その上で制度をどのように維持していくかを議論すべきだろう。
もしこれで自己負担限度額が引き上げられていくとしたら、民間のがん保険や医療保険に加入しなければと考える人も増え、結果として医療格差が拡大していく方向へとつながるのではないかと懸念する。