東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出について

  1. 中国は日本の水産物の大口顧客
  2. IAEAの立ち位置
  3. 核汚染物質は分散させないのが原則

中国は日本の水産物の大口顧客

日本政府は8月22日に関係閣僚会議を開いて「東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出する」と決定し、24日13時に開始した。

かねてこの動きに懸念を示していた中国政府は、対抗措置として日本産水産物の輸入を全面停止するとした。

ここ10年ほど、日本政府はインバウンドと合わせて農水産物の海外輸出を振興してきており、2022年の輸出データでは中国と香港を合わせると日本の海産物の輸出先として全体のほぼ半分を占めるほどの大きさとなっていた。

すでに今年7月頃から中国・香港への輸出額が減っていたのだからこの動きは当然予測できただろうし、今回の決定が外交上どのような影響を及ぼすのか事前に十分に検討されていなければならないはずだ。

だが、農水大臣はこうした中国の反応は「想定外だった」と述べ、マスコミの報道なども中国の輸入停止の決定は理不尽だとして批判している。

IAEAの立ち位置

今回の決定は、さまざまな点で問題をはらんでいる。

  • 処理水の海洋放出はこれから数十年続くとされる重大事なのに、国会などで広く討議することなく関係閣僚会議で決定した。

  • 首相と地元の漁業組合との話し合いも、予定を発表しながら結局キャンセルした。

  • 周辺の国々をはじめ諸外国との事前調整などもした形跡がない。

  • 処理水の海洋放出以外の方法(モルタル固化など)がきちんと検討されていない。

  • 処理水のデータが不十分……東電はトリチウムの存在を強調しているが、他の放射性物質(セシウム134、137、ストロンチウム90など)も無視できない量が含まれている。

  • 海はつながっているので、いずれ広範囲に汚染が広がり海外から賠償を求められる可能性がある(放射性物質を分析すればどこ由来の汚染か判別できる)。

IAEA(核技術の平和的利用促進を目的とする国連の関連機関)のお墨付きをもらったとする政府の説明をマスコミもそのまま報道しているが、IAEAは東電の出したデータを確認しただけであり、報告書を見ると「日本の方針を推奨するものでも支持するものでもない」と逃げていることがわかる。

さらに海外では、日本政府がIAEAに賄賂を贈ったのではないかという疑惑も報道されているという。

核汚染物質は分散させないのが原則

原則に立ち戻れば、核汚染物質は分散させないのが鉄則であり、処理汚染水(処理されたが汚染が残っている)の海洋放出はそれに反している。

また、福島原発の港湾内では、今年2023年6月の段階で捕獲されたクロソイから1kgあたり1万8000ベクレル(基準値100ベクレルの180倍)の放射性セシウムが検出されたと東電が発表しているが、福島第一原発の処理水はこの湾内の海水と混ぜられて1km沖合に放出される。

放出された水に含まれる放射性物質や重金属はプランクトンなどに取り込まれ、食物連鎖により生体濃縮されていき、最終的に人間の口に入って内部被曝をひきおこすことが懸念される。

水俣病患者の会が今回の処理水放出に反対しているのもそのためだ。

そもそも問題の根本には、凍土壁で囲って地下水の流入を防いだはずなのにうまく機能せず、地下水がむき出しの核燃料に触れて海に流れ出ていることがある。

東電は核燃料のデブリ(溶けて固まったもの)を年月をかけて取り出す計画だと言っているが、研究者はむしろ事故を起こした原子炉自体を石棺で覆ってしまうほうが現実的だろうと言っている。

私たちは、処理水問題の報道に振り回されるのではなく、原発事故の根本が解決されていないことをまず知らなければならない。