法律が変われば未来が変わる
ロバート・キヨサキは『金持ち父さんの予言』(筑摩書房刊)のなかで、金持ち父さんはよく、「いつも法律の変化に気を付けているんだ。法律が変われば未来が変わる」と教えてくれたと言っている。
たとえば金持ち父さんが注意を促していたのは1974年に制定されたエリサ法で、これによってアメリカの年金がそれまでの企業年金から個人が株式市場で運用する個人年金へと舵を切り、だれもが投資家となる変化を迫られたという。
そして今、日本の法律を決める国会で、これからの国民生活のありかたを根本的に変えてしまうような法案が提出され、議論されている。それが「テロ等組織犯罪準備罪」法案、反対する立場の人からは「共謀罪」法案と言われているものだ。
オリンピック開催に不可欠な法律?
今年1月23日には安倍首相が「2020年の東京五輪・パラリンピックを開催するためには、国際組織犯罪防止条約の締結は必要不可欠だ」と述べ、この条約締結のために「テロ等準備罪=共謀罪」の法制化が必要だとした。
だがその後、この国際組織犯罪防止条約は実はマフィアややくざなどの暴力組織を取り締まるためのものでテロとは関係がないこと、また、今回の「テロ等準備罪=共謀罪」の法案第一条「目的」にも「テロ」についての記述がないことが、国会答弁で明らかになっている。
つまり、「オリンピック開催のために不可欠なテロを防止する国際条約のための法律」という看板と、その法案の実際の中身は大きくズレていることがわかってきた。
実は、この法案の実際の中身である共謀罪は、これまで3度国会に提出され3度とも廃案となった経緯があるのだが、今回、与党は新たに「オリンピックのためのテロ対策」という飾りをつけてもう一度出してきたということのようだ。
では、この法律は何を取り締まることになるのだろうか。
本格的な監視社会が出現する
暴力組織の犯罪を防止するための法律であれば、一般人は捜査対象にならないはずだが、国会審議の答弁で法務副大臣は「一般人(つまりあなたや私)も捜査対象になる」と認めている。
ではどんなことが取締りの対象となるかというと、著作権法違反や公営林でキノコや山菜を採る森林法違反などをはじめ、200を超える広範囲にわたっている。
もうひとつ押さえておくべきなのは、一般の法律はすでに起きた犯罪を罰するものなのに対し、この「テロ等準備罪=共謀罪」は、それについて話し合ったり計画や準備をしたりした段階で取り締まるものだということであり、密告制度もある。
一般人も含む多くの人がまだ起こしていない広範囲の犯罪を取り締まる法律「共謀罪」ができたとしたら、警察は「怪しい」「危険だ」と睨んだ人たちを日常的に監視する必要が生じ、日本はより本格的な監視社会へと移行することになるだろう。
私たちは日常の会話から携帯電話でのやりとり、LINEやツイッターまで常に見張られ、またお互いに監視し、びくびくしながら思ったことも口にできない生活を送ることになりそうだが、ほんとうにそれが望ましい社会なのだろうか。