家を持たないノマドたちの生き方

  1. 本年度アカデミー賞の最有力候補
  2. 女性たちが陥る貧困
  3. 家に住むコストが上昇している

本年度アカデミー賞の最有力候補

先日、クロエ・ジャオ監督の映画「ノマドランド」を見た。心揺さぶられる作品だった。

家を失い、短期労働者として働きながらキャンピングカーで暮らす、中高年の人々の現実を描いている。

「ノマドランド」は、2020年9月のベネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞、今年のゴールデングローブ賞でも「映画の部・作品賞(ドラマ部門)」に輝き、さらにアカデミー賞も取るのでないかと噂されている。

主演は、2017年に「スリー・ビルボード」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンド。彼女がこの企画をジャオ監督のもとに持ち込んだという。

女性たちが陥る貧困

主演格の二人以外は、実際に車上生活をするノマド(放浪の民)たちが演じている。

まるでドキュメンタリーであるかのように、クリスマス前のamazon倉庫での短期作業やビーツの収穫作業、車上生活と仲間との交流、美しくも厳しい自然、背筋を伸ばして凜として孤独に生きる人々が描かれる。

主人公ファーンがノマドとなったのは、リーマンショックで夫が働いていた会社が倒産し、町ぐるみ地図から消え、夫も病気で亡くなったからだ。

特別なキャリアもなく、60代と年齢を重ね、家も家族もないファーンは、前向きにこの車上生活を受け止めているように見える。しかし、いつまでその生活を続けられるのだろう、とふと考えてしまう。

家に住むコストが上昇している

この作品は、もともとノマドたちを取材したドキュメンタリーをもとにしている。

すでにゆとりのなかった人々が、リーマンショックによってそれまでの生活からはじき出されノマドとなったのだろうと、ドキュメンタリーの著者はインタビューで語っている。

その後、景気が回復するにつれ、アメリカの株価も不動産価格も上昇し、都市によってはもはや家を買うことが夢物語になっているという。

アメリカの経済と社会の縮図がそこにあると言ってもいいだろう。

そして、それは日本に住む私たちにとっても、決して遠いものではないのだろうと感じてしまう。