きっかけは議員定数削減法案の審議入り
6月29日、自民党と日本維新の会が提出した「衆院議員定数削減法案」が、衆議院政治改革特別委員会で審議入りとなった。
衆院議員定数削減法案は議員定数を減らすことを目的とし、与野党の協議が1年以内にまとまらない場合は衆院の比例代表枠のうち45議席を自動的に削減するという内容だ。
これは選挙制度を圧倒的に与党に有利するものだし、影響を受けて議席を減らすのは主に少数野党なのは明らかで、主権者の多様な意見が反映されなくなり、さらに大政翼賛化するのではないかと懸念されている。
中道改革連合など野党5党がこれに反対し欠席する中、与党である自民党と日本維新の会が審議入りを強行した。
その結果、野党が欠席したまま与党だけで審議をしたことにする、いわゆる「空回し」が行われることになった。
つまりは、与野党の議論を通して国民への説明をしていくはずの国会の場で、圧倒的な議席数にものを言わせて、討議を行わないまま一方的に法律を決めようとする行為だ。
首相には法案説明の責務がある
しかし、この法案自体がかなり稚拙で乱暴なものだと言わざるを得ない。
与野党の協議がまとまらない場合には45議席を削減するという法案の立て付けがまず意味不明だし、なぜ比例代表枠だけを45議席削るのかと聞かれた高市首相は「維新の会が1割削減を求めたからだ」としか説明できないありさまだ。
それでもこのまま採決かと思われたが、野党全党が揃って審議拒否をしたため議長の要請で採決は見送られ、7月7日に定数削減法案の今国会での成立を断念することを自民と維新が合意した。
国会の審議を再開するにあたり、野党側は当初約束されていた党首討論と、首相が出席する予算委員会での集中審議を17日までの国会会期中に行うよう求めた。
毎月行うと約束していた党首討論は5月に45分間のみ行われただけだし、首相が出席する集中審議は歴代の首相の中で突出して少なく、石破前首相と比べると約3分の1以下でしかない。
閣議決定によりいくつもの法案が国会に提出されているのだから、内閣の長である総理大臣が国会に出席し説明を尽くすのは当然の責務である。
しかも数々の疑惑について質問されても正面から答えることなく、ずるずると長い答弁を繰り返すだけなので、疑惑はさらに深まるばかりだ。
皇室典範改正をなぜ急ぐのか
自民党と維新の会が定数削減をとりあえず断念して優先したいのが、「皇室典範改正案」だという。
今回の改正は皇族数の確保を目的としたものだとされ、皇族以外と結婚した女性皇族が婚姻後も身分を保持する、旧宮家出身の15歳以上の男系男子を養子縁組で皇族となるなどの案をふくんでいると説明されてきた。
だが、高市首相周辺の日本会議系の人脈などから漏れてくる発言を聞くと、男系男子のみに限って皇位継承権を持つという考えに基づき、養子縁組で皇族となった男系男子の息子を天皇の位置につけようとしているのではないかと疑われ、すでに具体的に人選がなされて内諾を取っているのではという推測も生まれている。
高市首相の後ろ盾である麻生太郎元首相が皇室典範改正について繰り返し発言していることや、その妹と姪が最近女性ながら宮家の当主になっていることなどを考え合わせると、なかなかきな臭いように感じられる。
さらに、今上天皇や宮内庁の会見を見る限り、今回の改正が当事者である皇室の意向をまったく無視しているように思われるのも気になる点だ。
加えて、皇室典範改正の審議についてはTV中継を入れたくないという自民党議員の発言を知ると、何をそんなに隠したいのかと疑念が強まっていく。
世論調査の結果などを見ると、国民の60%以上が次の天皇には敬宮(としのみや)愛子内親王をと望んでいるという結果が出ているし、ヨーロッパ諸国では男女を問わず長子が王位継承権を持つようになっていることを考えると、国民の総意と時代の流れにそぐわない方向に進んでいるように思えてならない。
「個人情報保護法」「憲法改正手続法」が危ない
国会正常化ということで審議が再開されたと思ったら、自民維新の態度はさらに横暴さを増しているとしか言いようがない。
「皇室典範改正案」については、緊急の案件でもないのに、10日に審議入りして3時間だけ審議してその日のうちに衆議院本会議での採決を行った。
9日には、「個人情報保護法改正案」が参議院のデジタル特別委員会で可決され、10日午前に本会議で可決成立した。
AI開発を含む統計情報を作成する場合には、病歴などの機微な情報も含む個人データを、事業者が本人の同意なく第三者に提供できる特例を設けるもので、個人情報(顔写真・住所・氏名・病歴・犯罪歴・犯罪被害歴・デバイスに上げたすべての情報等を含む)が一度流出してしまえば二度と回収できないこと、犯罪や差別等に利用される可能性が容易に想像できることなど、人権を無視した憲法違反の法律であるとして反対の声が多く上がっている。(ちなみに国会議員の個人情報は対象外だという。)
さらには、この法律改正で米のデータ解析企業パランティアに国民を監視させることを可能にするのではないかとの懸念を示す人も少なくない。
また、世論調査では有権者の1%ほどしか関心を示していない「憲法改正」を進めるための憲法審査会を参議院で再開し、国民投票法(=憲法改正手続法)を採決に持って行こうとしている。
高市政権で出された法案は、議員定数削減法も、国旗毀損法も、個人情報保護法改正も、国民投票法(=憲法改正手続法)改正も、どれもかなり問題があると指摘されている。
17日までの国会会期はさらに1週間延長されるとの情報もあるが、不況と円安と物価高で苦しむ国民の生活とはかけ離れた法律ばかりが十分な審議も経ずに決められていく今の国会を、みんなで監視しよう。
