高額医療費負担制度
いま、健康保険制度がそのうちに変わってこれまでのような医療が受けられなくなるのでは、という不安の声が一部で上がっている。
あまり大きく報道されていないが、ことの発端は7月26日に財務省が発表した「予算執行調査」で、これは各省庁の予算の使い方に問題がないかどうかを調査したものだという。
この調査項目のひとつが国民健康保険の高額医療費負担金についてで、財務省のこの調査報告では、国保の先行きを考えると「廃止に向けた道筋を工程化すべき」だとしている。
つまりは、「いずれ国民健康保険の高額医療費負担制度はなくす方向で具体的な方策を考えていくべき」だと財務省が言っていると思っていいだろう。
では、ここで問題となっている高額医療費負担制度とは何だろうか。
医療費の本人負担の上限を決めるもの
ごく大ざっぱに言うと、日本は医療の面で原則「国民皆保険制度」で、だれもが国民健康保険、被用者健康保険(いわゆる組合けんぽ、協会けんぽなど職域ベースのもの)か高齢者医療保険のいずれかに加入し、必要な時に医療を受けられることになっている(実際には保険から漏れている人が一定の割合で存在するし、さまざまな課題もある)。
医療費の自己負担は1割〜3割だが、かかった医療費の額がたとえば月100万円と高額になれば支払額は10万〜30万円になる。
そうした場合に、本人が負担する医療費の上限を決めて、それ以上は支払わないで済むようにするのがこの高額医療費負担制度だ(平均的な収入の会社員だと負担の上限は月8万円程度だが、収入等で変化する)。
家族あるいは自分が大きな病気や手術をしたことのある人なら、高額医療費負担制度のありがたさは実感していると思うし、実際「この制度がなかったら抗がん剤治療は続けられなかった」と友人から聞いたこともある。
国民皆保険の原則が崩れる?
財務省はこの制度の国の負担部分を地方自治体が肩代わりすることを望んでいるようだが、すべての地方自治体にそれだけの力はなさそうに思えるので、結局は制度がなくなるのではないか。
もしも財務省の主張通りになって、国民健康保険の高額医療費負担制度がなくなるとしたら、ほかの健康保険もいずれ同様の方向に舵をきることになると考えるのが自然だろう。
そうなると、大きな病気やけがに備えて民間の医療保険にも入っておかないと安心できない、最悪の場合はお金がないと医療が受けられない、ということになっていく可能性がある。
つまりは公的な健康保険料を払うほかに、民間の医療保険に入る必要がでてくるということだ。
いずれは医療機関のありかたも大きく変わっていき、健康保険制度外での自由診療を行う高額医療保険に加入した富裕層を対象とした所と、そうでない所に二分されていくのだろうか。
そうした結果、国民皆保険の原則自体が大きく崩れていくことになるのではないだろうか。不安の声はそうした懸念をあらわしているのだと思う。